サステナビリティ

【支援選手引退インタビュー】溝口友己歩選手(陸上/競歩)

ホンダロジコム陸上競技部(競歩)の溝口友己歩選手が、2022年9月の全日本実業団対抗陸上競技選手権大会を最後に現役を引退。14年間の競技生活にピリオドを打ち、新たなステージで活動を始めました。これまでの競技生活や引退を決意した思い、これからの活動などについて話を聞きました。


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――競技生活、お疲れさまでした。
これまでの競技の思い出や、競歩に対しての思いなどについて教えてください。

競技人生を振り返って


中学2年生、競歩との出会い


――あらためて、溝口さんの競技人生についてお聞かせください。

初めて陸上大会に出場したのはおそらく小学5年生の時だったと思います。あまりかけっこは得意ではなかったのですが、マラソンは好きで。マラソン週間では走った距離の分、色を塗っていくプリントが配られるのですが、そのマス目を塗りつぶすのが楽しみでたくさん走っていたのを覚えています。

競歩を初めて経験したのは中学2年生の夏頃になります。顧問の先生の繋がりで競歩選手が練習に来てくださって、みんなで教えてもらったことがきっかけ。競歩の大会に出場するようになり、中学時代は全国大会優勝や大会新記録を出すことができ、毎日必死に練習をして、競歩で夢のインターハイに出場し7位入賞をすることができました。結果で自信のついた私は、走ることも諦めきれず、駅伝にも出たいと顧問の先生に申し出たところ「中途半端にやるものじゃない。お前は一番何がしたいのか。」と聞かれ、反対されました。「インターハイで優勝したいです。」と答えて、先生に「じゃあもうどうするべきかわかるだろう。」と言われたときに、もう走ることは諦めなければいけないと感じ、自分にとっては大きな挫折を経験しました。そこから競技を一本に絞り、競歩と本気で向き合うようになりました。


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憧れのインターハイ出場、そして世界への挑戦


――これまで出場した大会の思い出は。

結果を出す楽しさを知ることができた高校時代のインターハイと、最初から最後まで興奮状態で集中して楽しめた大学時代に挑戦した世界大会です。

高校時代の3度のインターハイ。1年目は全国大会に出場できることが楽しみで仕方がなく、練習からワクワクした気持ちでレース本番も楽しくて無我夢中で挑戦しました。2年目はレースの2,3週間前から調子が上がらず精神的にも不安定になりながら出たレースでした。3位には入れたものの消極的なレースだったなと振り返ります。レース前悩んでいた時期に先生やコーチから「感謝の気持ちが足りていないから不安になる。当たり前になっている。」という言葉や、「一つ一つのことを丁寧に取り組むようにすれば自然と調子も上がってくる。」というアドバイスは、私にとってインパクトがあり、調子が悪いなと感じるときにいつも思い出しています。そして1番嬉しかったのが3年目のレース。絶対に勝つんだという気持ちだけで臨み、無事に優勝できた時は心からホッとしたのを覚えています。プレッシャーが大きかった分楽しいというよりもとにかく必死なレースでした。

大学時代は2つの世界大会へ出場する機会に恵まれ、大学1年目にはジュニアの代表として選んでいただき、初めての海外レースを経験しました。結果は10位でタイムも内容も初めての海外遠征にしては悪くないかなというものでした。何より国際大会独特の雰囲気や、想定通りにいかない場面で臨機応変に対応することなど、これからにつながる経験をすることができました。その後は、U20世界選手権大会に出場し、目標としていた8位入賞を達成することができました。このレースが競技人生で一番楽しくもあり、印象に残っているレースだなと思います。色んな条件や結果の出る要因がピタッと噛み合って、ゾーンに入った状態を体感しました。この2本の海外レースを経て、オリンピックに出たい、日の丸をつけて活躍したいという思いが強くなりました。


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さらに強くなりたい思いと焦り


――競技を続ける中で、大変な時期はありましたか。

大学時代はさらに強くなりたい思いと焦りで練習を積み、大腿骨疲労骨折をしてしまいました。その後、結果を出すことができた大会もありましたが、度重なるケガや練習ができない期間もあり、大学時代は苦しい時期が続きました。しかし、良かった時のことが忘れられず、もう一度自己記録を更新したり、日の丸をつけたいという思いから、卒業後も競技を続けることを決断しました。


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「多くのことに挑戦し、試行錯誤」自分と印象の重なる会社と出会う


――ホンダロジコムへ入社した経緯を教えてください。

オリンピックを目指して競技を続けたいという思いからJOC(日本オリンピック委員会)の「アスナビ」を使用し、企業とのマッチングをサポートをしていただきながら就職活動を行いました。そこで弊社の社長にお声掛けいただき、会社のことを知っていく中で入社を決断しました。志望理由はいくつかありますが、物流以外にも様々な取り組みをしていて色々なことに挑戦しているところが、競技で悩みながらも試行錯誤している自分と重なったこと、また、ホッケー選手の受け入れをしていて、アスリートへの理解がある会社だと思えたことも大きかったです。


――入社後、どのような練習を重ねていましたか。

入社してからはコロナ禍とも重なり、環境を整えるのに手探り状態でした。メニューもフォームも全て自分で管理していた時期もありましたが、結果が出なくなり始めてからはどちらにも自信を持てなくなってしまい、このままではよくないと思い、大学の先輩にアドバイスをお願いしたり練習方法を変えてみたり様々なアプローチをしながら練習をしていました。

会社からは競技ファーストで集中する環境を与えてもらい、毎日の生活全部を競技にかけることができました。また、コロナ禍でいろいろな制約がある中でも、気持ちを切らすことなく前向きに練習を継続できたのは、一番近くでサポートしてくださった上司や先輩社員の皆さんの支えがあったからです。


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トライ&エラーを繰り返す連続で目標をクリアできず


――引退決断に至った要因は。

練習を積んで、本番前の状態に手ごたえを感じるものの、試合で思ったような結果が出せないことが続き精神的にも追い込まれる時期もありました。それでもやっぱり、結果で返したいという思いで続け、トライ&エラーを繰り返す連続で目標をクリアできず。入社から3年目、競技生活に区切りをつけたいという気持ちになりました。


――引退して今思うことは。

競技を終えた今、社会人になってからの取り組みもできる限りのことはやってきたので、悔いはありません。陸上で培ってきた経験がどういう時に活きていると感じられるか正直まだ分かりませんが、これからもどんなことでも一生懸命に丁寧に、より良い方法を考えて取り組んでいきたいと思っています。


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競技から学んだこと、これからの展望


どんな経験も無駄にはならない


――競技を通して学んだこと・感じたことは。

私は中学生の頃から「自分よりも競技力がある人は何が違うのか」という思いで、盗めるところはないかみたり、より良くするために必要なことを考えていました。トップ選手と関わる中で感じたのは、合う合わないは人それぞれ違ってくる為、取捨選択が大切ということです。自分軸がしっかりできている選手は強いなと思いました。また、一見競技には繋がらなさそうな経験も意外なところで活きていたり、思わぬ形で繋がることは多くあって、どんな経験も無駄にはならないと思いました。そう考えるようになってからは嫌な経験もプラスに変えることができています。

好きな言葉は「継続は力なり」です。動きが崩れてからは努力をしても報われない負のループでしたが、それでも努力し続けてきたから得られたことは沢山あって、無駄な時間ではなかったと思っています。


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尊敬できる人や信頼できる人との出会いは一番の財産


――溝口さんにとって競歩とは。

私にとって競歩は夢や目標、生きがいをくれた存在です。競歩を通して、いろいろな経験をすることができました。嬉しい出来事も苦しい出来事も今となっては全て大切なもの。また、尊敬できる人や信頼できる人との出会いは一番の財産になりました。


――今後について教えてください。

引退後、配属された部署は本業(物流)以外の取り組みを進める部署で、私はその中でもSDGs担当になりました。社内での活動はもちろん、他団体の取り組みを社外に発信し広めていく(自社ラジオコーナーにて)業務を担っています。
SDGsについてまだ勉強中ではありますが、今の日本・世界が抱えている問題を一つ一つ掘り起こしてみるとSDGs(持続可能な世界を実現するための開発目標)に繋がっていて、今を改善していかなければ未来のこども達が困ってしまう。仕事をとおし、自分自身も、会社も、世界もよりよくしていけたらと思います。また最近、陸上を軸に子供教育に取り組まれている方と出会いました。私も今までの経験生かしこどもたちに陸上の楽しさなどを伝えられたらと考えています。


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溝口友己歩(みぞぐちゆきほ/陸上競歩)
1997年生まれ。長野県出身。大学卒業後、ホンダロジコムに入社。2022シーズンの全日本実業団対抗陸上競技選手権大会を最後に現役引退。

・高校からの主な成績
2013年 全国高校総体 7位入賞
2014年 全国高校総体 3位入賞
2015年 全国高校総体 優勝
2015年 国民体育大会 8位入賞
2016年 世界チーム競歩選手権(イタリア) 10位
2016年 U20世界選手権大会(ポーランド) 8位入賞
2016年 全日本学生選手権 3位入賞
2016年 国民体育大会 5位入賞
2017年 全日本学生選手権 3位入賞
2017年 国民体育大会 3位入賞
2018年 日本選手権大会 5位入賞
2018年 全日本学生選手権 3位入賞
2018年 国民体育大会 8位入賞
2019年 国民体育大会 7位入賞

・入社後
(2020年はコロナの為ほとんどの大会が中止)
2020年 全日本実業団 6位入賞
2021年 日本選手権大会 10位
2021年 東日本実業団 6位入賞
2021年 全日本競歩輪島大会 4位入賞
2022年 日本選手権大会 11位
2022年 全日本競歩能美大会 6位入賞
2022年 東日本実業団 5位入賞
2022年 全日本実業団 7位入賞


取材日:2023年1月
聞き手:ホンダロジコム株式会社 経営企画室 広報グループ 武藤真実